紫陽花(アジサイ)がきれいな梅雨どき、でもそれは「花」じゃない?
- YOSHINOBU NISHIKAWA
- 2023年6月5日
- 読了時間: 4分

こんにちは! ニコnewsです。
梅雨時はどんより薄暗い日も多くなりますが、その中で鮮やかに咲くアジサイの花は、とてもきれいですよね。ところが、その「鮮やかな花」と思っているものが「花」ではないことをご存じでしょうか?
もちろん、アジサイは花を咲かせる植物です。
しかし、私たちが愛でている部分は「花」ではなく「萼(ガク)」。
ではアジサイの「花」はどこにあるのでしょうか?
いちばんわかりやすい「ガクアジサイ」

真ん中に小さいつぶつぶが集まっていて、周りに花びらのようなものがついているのが「ガクアジサイ」。日本原産で、すべてのアジサイの原種でもあります。
この中の「花(おしべとめしべがある両生花)」は、真ん中の小さいつぶつぶの部分。この写真では、すでにたくさん咲いているので「花」であることがわかりやすいのではないでしょうか。
一方、周りの白いものは「装飾花」と呼ばれ、昆虫などを呼び寄せる役目をしています。この白い部分は「花びら」ではなく「ガク」。実は装飾花の真ん中にも小さい花があるのですが、この部分はめしべが退化しているものがほとんど。品種や個体で差はあるものの、仮に開いたとしても、種子を付けるまでには至らないのだそうです。
「両生花」と「装飾花」の違いは、種子をつけるかどうか、つまり「次の世代を生み出す役割を果たすものかどうか」。見た目は装飾花の方がきれいで目立ちますが、植物学的には「種子をつける両生花が真の花」になるのです。
なお「ガクアジサイ」という名前は「萼(ガク)が花のように見えるから」ではなく、「周りの装飾花が、真ん中にある両生花の額縁のようになっている」ことから付けられました。
半円形のアジサイの「花」はどこ?

「アジサイ」と聞くと、半円形のアジサイを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。見えづらいですが、装飾花をかき分けると、おしべとめしべが付いた小さな両性花や、そのつぼみを見ることができます。
このタイプは「ホンアジサイ」や「西洋アジサイ」と呼ばれ、日本の野生種であるガクアジサイが海外で品種改良されたもの。
装飾花がより多く、(花びらのような)ガクがより大きくなる系統を選んで品種改良された結果、きれいな装飾花に覆われたアジサイができたのです。
原種となるガクアジサイが、中国を経由して欧州へ持ち込まれたのは江戸時代末期。
その後、品種改良されたものが日本へ逆輸入されたのは大正時代でした。
アジサイを西洋に持ち込んだのはあの著名人

日本からアジサイの原種を欧州へ持ち帰り、アジサイという植物を世界に広めたのはシーボルトでした。帰国後に出版した『フローラ・ヤポニカ(日本植物誌)』には17種類ものアジサイが掲載されています(ただし一部誤りもあり)。
その中の一種に、学名の後ろに「otaksa(オタクサ)」と付記して登録申請された半円形のアジサイがありました。これはシーボルトの日本人妻(愛人)「楠本滝(愛称:お滝さん)」にちなんで付けたものと考えられています。
日本の植物学の父・牧野富太郎博士(※)は、大正時代になってからこのことを知りました。そして「遊女だった愛人の名前をつけるなど、きれいなアジサイに対する冒とくだ」と憤慨したそうです。
※現在放送中の連続テレビ小説『らんまん』の主人公のモデルとなった人物
シーボルトと牧野博士、どちらもアジサイに対する愛情が深かったことを伺わせるエピソードですね。

このきれいな色の部分が「花ではない」のは残念な気もします。ただ、正体が「ガク」であっても、きれいなことに変わりはありません。
ガクで覆われた半円形のアジサイができたのも、「より美しいものを作りたい」という人間の素直な欲からだったのでしょう。
いろいろな種類がある日本生まれの花「アジサイ」。
ぜひ「小さい花」にも注目してみてください。
本記事参考サイト
※サイト内に顕微鏡で見た画像が含まれます。ブツブツや小さな穴の集合体が苦手なトライポフォビア(集合体恐怖症)の方はご注意ください。
ニコ株式会社 代表 西川
ライター 三葉紗代
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